例えば、シャボン玉を手の平で作る実験を通じて生徒は表面張力といった科学法則を学ぶように、「科学のためのワークショップ」では自らが実験に参加することにより、科学を学びます。
アメリカの子供は、生き馬の目を抜くようなハイテク時代の戦力として世界中で通用するような科学教育を受けているのでしょうか?ロバートウッドファンデーションとハーバード大学公衆衛生大学院、及びNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)が共同で行った世論調査によると、残念ながら殆どの親は否定しています。
約4分の1の親は、子供の学校が科学の教育課程に十分な力を入れていないと感じており、子供が幼稚園から5年生までの親の30%は、科学に重点を置いた授業が少なすぎると考えています。
カリフォルニア在住で二児の母親のエリザベス・ホールさんは、この世論調査に「子供には科学や算数って面白いと思ってほしいのですが、私たちはかなり遅れてますね。」と答えました。
ホールさんは、多くの教師がテストの成績ばかりを重視する政府の政策のプレッシャーに疲れて自信を失ってしまい、科学についてはそれほど悪くない成績を取れれば良いと考えていると指摘します。
科学の授業も他の授業と同じ
ホールさんの高校2年生の娘さんは医学の道を志していますが、学校の生物と化学の授業に不満を持っています。
「先生は科学に熱心じゃないし、好きでもないようにみえます。科学が私たちの生活にいかに重要であるかを教えてくれるような授業はなく、他の授業と何ら変わりません。」とホールさんは言います。
15才になる妹のグレース・ホールさんは、科学がいかに自分の生活や将来の職業と密接に関連しているのか教える事、生徒の答えの正否を判断するのではなく、何故その考えに行き付いたのか深く分析する事で、科学教育の現状を打破できると考えています。
グレースさんによると、化学の授業中、クラスの皆が「何で私達はこれを勉強しなくちゃならないの?」と思っており、もしこの授業が、ただ覚えるだけでなく理解する、何故その答えが導かれるのか深く知ることができるような内容であればもっと良くなるだろうと言います。
連邦政府と各州の統計では、高等教育を受けている生徒の少なくとも3分の1は補習授業が必要であるとされており、多くの親や教師、関連業界や学会の不安視している科学における学力の差の開きを浮き彫りにしています。
科学に対する愛情を感じないし、子供たちにいかに科学が我々にとって重要なのかを教えてくれる授業もありません。他の授業と何らかわらないのです。
国際テストでも、特に数学と科学の分野でアメリカの生徒が世界に後れを取っていることがわかりました。最近のOECD生徒の学習到達度調査(PISA)では、アメリカ合衆国の科学の成績は世界で28番目という結果でした。
ミネソタ州で8年生に地球科学を教えているマリー・コールソンさんは、科学の授業にもっと時間を割く必要があると主張します。今日の小学校では、読む事と算数を重視するあまり、科学や社会について学ばせる時間が足りなくなっているのだそうです。
「これは残念な事です。何故なら、本来、子供というものは自然界に対する好奇心に満ち溢れているからです。」とコールソンさんは言います。
子供を科学をに夢中にさせる
ある日の午後のサンフランシスコでは、ポール・レビア小学校に通う9才の子供たちがヴァンデグラフ起電機を熱心に見入っています。もうすぐ私がバチンと静電気ショックを受けるのを期待しているからです。子供たちは、私のマイクの金属部分を起電機に付けてみてと懇願します。もちろん、科学的興味によるもので、私を痛めつけたいのではないと思いたいですが。
子供たちはすっかり興奮して場は騒がしくなりましたが、実はそれが大事なのです。これがサンフランシスコの「科学の為のワークショップ」における自由探求プログラムが求めているものだからです。このプログラムは、低所得で恵まれない家庭の子供が多い公立小学校の生徒に科学の面白さを教える事が目的で、多くの体験を通じた学習や、教師が学校に戻っても続けられる研究を取り混ぜて行われます。
ここには沢山の生きた爬虫類や動物の骸骨、研究課題ごとのコーナーがあり、かつては大きな高校の作業室でしたが、今は科学の秘密基地のようです。気の向くままに行動するマッドサイエンティストや「チャーリーとチョコレート工場」のウィリー・ウォンカを想像してみてください。4年生のマシュー・リビアとジャマル・デイモンはサラ・ジェーン・レイリー先生が見守る中、二匹の大きなニシキヘビと格闘しています。
「私はアイルランドで生まれ育ち、小さい頃はほとんど科学の勉強はしませんでしたから、ここに最初に来た時、子供たちに考える事を学ばせるやり方に感動しました。」とレイリー先生は言い、「子供たちには、先生のいう事をただ信じるだけではなく、自分で試してみること、間違っても良いから自分がどう考えるかを言葉にすることを教えています。」と付け加えました。
サム・ヘイナー先生はこのワークショップを、独創的な実験によって学ぶ意欲を刺激し、「科学の授業は教室に座ってこれまでに明かされた事実を静かに学ぶ」という概念を覆すものだと評価します。そして「この場所は本当に上手く出来ています。子供たちはここで何かを作って試し、実験して失敗することで更に何かを学ぶのです。実は科学とはそうして事実を探求する学問なのです。」と感心していました。
一部の子供たちにとっては、例えば電気回路のように現実に役立つものを作る方が、より効果的に算数や科学を学べるのです。
生徒に探求する時間を与える
ここでは全てが自由研究ではありません。生徒たちは先ほどの混乱からほぼ落ち着き、皆が植物のライフサイクルを研究するためのテラリウム作りに取り掛かっています。
ポール・レビア小学校の先生でこのワークショップに生徒を定期的に連れて来るジェシカ・ハン先生は「子供たちがここで研究している時は、自分たちが興味のあるものを見つけてただ興奮していますが、学校に戻ると、自分たちが研究したことについて教科書で調べてみたがります。この場所は子供たちが今まで知らなかったことや、興味がなかった事に対して開眼させる絶好の機会を与えてくれると思います。」と言います。
先のNPRの世論調査で、親が現在の小学校の科学教育で足りないと感じていたものは、このような科学プログラムなのかもしれません。
ミネソタ州の教師、マリー・コールソンさんは、全国の新しい科学水準を定めた「次世代科学の基準」の作成に協力しましたが、その基準はいかに子供の興味を科学に向けさせるか、いかに多くの生徒に科学的思考を習得させるかが焦点となっていると言います。更に「子供たちに与える総情報を減らし、これまで暗記させていた科学法則の数を減らすことにより、生徒は学校で研究したり、実験を重ねて自分の考えを構築する時間ができます。『次世代科学の基準』の定めたこの科学学習の変化により、子供たちはより積極的に科学に取り組むようになるでしょう。」と言及しました。
コールソンさんは、新しい基準に沿った教室は、おそらく騒がしくて教師にとって統率するのが難しくなるとした上で、より多くの生徒が科学とは退屈なものだという固定観念から抜け出し、科学とは日々の生活の中にあるもので、難しいどころか面白いと思うようになると予測しています。
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