ラズパイは前回紹介したモデルだけではなく、特定用途に特化したシリーズやカメラ・ケース・電源ケーブルなどのアクセサリが公式製品として販売されています。また、競合製品としてオレンジパイやバナナパイといった製品もあります。今回は、これらの製品について紹介します。
コンピュートモジュール
スタンダードなRaspberry PiシリーズやコンパクトなRaspberry Pi Zeroシリーズのほかにも、産業用や研究用のアプリケーションに適した特別なシリーズがあります。
いわゆる「コンピュートモジュール」と呼ばれるタイプのものは、パソコンなどの「メモリ」と似た小型の基板で、最低限の動作に必要な部品だけが実装されています。
こうした「亜種」も、2014年以降様々なものが登場しました。
コンピュートモジュール1 / 2014年6月
- 寸法:67.6mm×30mm×3.7mm(長さ×幅×高さ)
- CPU:BCM2835 シングルコア 700MHz
- GPU:Broadcom デュアルコア 250MHz
- メモリ:512MB
- ストレージ:4GB
- 希望小売価格:30$
この製品が通常のRaspberry Piと異なるということは一目見て分かる通りです。
ネットワークや無線接続、外部接続の機能はなく、DDR2S0DIMMと互換のあるメモリスロットからのみアクセスできます。
合計60本のIOピンがあり、そのうち48本をGPIOとして使用できます。
電源電圧は1.8Vと5Vから選択でき、消費電流は電源電圧によって変わります。
コンピュートモジュール3/3 lite / 2017年1月
- 寸法:67.6mm×30mm×3.7mm(長さ×幅×高さ)
- CPU:BCM2837 クアッドコア 1200MHz
- GPU:Broadcom デュアルコア 400MHz
- メモリ:1024MB
- ストレージ:なし/4GB
- 希望小売価格:25$/30$
コンピュートモジュールの名前はベースになったRaspberry Piのモデル番号からつけられているので、1の次が3になっています。
4つのコアとコンピュートモジュール1の2倍のメモリを搭載したBCM2837を搭載しており、「1」よりも大幅に高速化されています。また、64bitにも対応しています。
コンピュートモジュール3には、ストレージのある通常モデルと、ストレージのないLiteモデルの2つのバリエーションがあります。
コンピュートモジュール3+/3+lite / 2019年1月
- 寸法:67.6mm×31mm×3.7mm(長さ×幅×高さ)
- CPU:BCM2837B0 クアッドコア 1200MHz
- GPU:Broadcom デュアルコア 400MHz
- メモリ:1024MB
- ストレージ:なし/8GB/16GB/32GB
- 希望小売価格:25$/30$/35$/40$
コンピュートモジュール3から性能面で大きな変化はありません。
ストレージの容量が変更され、容量によって3つのバリエーション(と、ストレージのない3+lite)を展開しています。
アクセサリー
Raspberry Piはボードだけでなく、アクセサリーも充実しています。多くのサードパーティ製品がありますが、Raspberry Pi財団から公式のオプション機器も提供されています。
電源
使用するボードによって消費電流は異なりますが、用途に合わせて適切な電源を選択する必要があります。
電流の供給能力がギリギリの電源でもRaspberry Piは動作しますが、電流不足に陥ると警報が表示されます。
過負荷などで動作中に電源が故障してしまった場合、Raspberry PiやSDカードが故障してしまうこともあります。
このため、必要な電流を無理なく安定して供給できる適切な電源を用意しなければなりません。
Raspberry Pi財団から発売されている公式の電源ユニットを使用すれば問題なく電源供給可能です。MicroUSBコネクタを搭載しており、5V最大2.5A(2500mA)の電力を供給できます。
Raspberry Pi 3までのモデルはこのまま使用でき、モデル4を使用する際にはUSB Cコネクタへの変換アダプタが必要になります。
また、Raspberry Pi 4向けにUSB Cコネクタで直接接続できる電源も用意されています。こちらは5V3A(3000mA)まで供給可能なものです。
マウス・キーボード・ケース
白色と赤色の組み合わせがRaspberry Pi関連製品の配色として定着しているので、公式のAccessoryはすべてこの配色になっています。
Raspberry PiはUSBポートの数が決して多くないという事情から、公式キーボードにはUSBハブの機能が内蔵されています。例えばマウスなどはキーボード側に接続して使うことができます。
カメラ
Raspberry Piは初期のモデルから基板上に直接カメラを取り付けるためのコネクタが用意されていましたが、対応するカメラモジュールが公式アクセサリーとして手に入るようになったのは2013年5月のことでした。
このカメラは500万画素のイメージセンサーを搭載しており、先述のコネクタにリボンケーブルで接続して使用します。
公式カメラには赤外線フィルターが取り付けられていて、赤外線光源を使用した夜間撮影ができません。公式カメラモジュール発売の数か月後にはこの赤外線フィルターのないNoIR[1]版が発売されました。
2016年には通常版・NoIR版ともに800万画素のイメージセンサーを搭載したバージョンも発売されました。
その他のアクセサリー
このほかにも、Raspberry Pi財団ではRaspberry Pi各モデルに接続できるアクセサリーを提供しています。
2015年9月には液晶ディスプレイが発売されました。7インチ、解像度800×480ピクセルで、10点マルチタッチ検出のできるディスプレイです。
ディスプレイ用のコネクタのないRaspberry Zero/Zero W/Zero WHを除くRaspberry Pi全機種に対応しています。
無線通信機能のないボードに使用する安価なWiFiアダプタは、ボードのチップセットによって動作するOSが異なることもあり、選定が難しいものです。2018年までは公式にWiFi USBアダプタが提供されていましたが現在は販売されていません。
モデル3以降のボードでは全機種に無線モジュールが搭載されていることから、その必要性が低くなっているからです。
また、公式に販売されているHAT[2]モジュールもいくつかあります。
Raspberry Piにネットワーク経由で電源を供給するためのPoE[3] HAT、センサーで機能拡張するためのSense HATなどがあります。
Sense Hatにはジャイロセンサー、加速度センサー、磁気センサー、温度センサー、湿度センサー、気圧センサーなどが取り付けられています。
このHATは2015年12月から国際宇宙ステーション(ISS)に持ち込まれ、様々な実験が行われました。
Raspberry Piクローン
Raspberry Piの成功を目の当たりにした他のメーカーが同様のシングルボードコンピュータ製品を市場に投入しました。
今日では多くのコピー製品や同様のコンセプトの競合製品が販売されています。
同じターゲット層・使用方法を対象としたものもあれば、全く異なる切り口で開発された製品もあります。
「Raspberry Pi」という名前をもじった名前を付けて、オリジナルを意識させる商品も多くみられます。ここでは有名なものを3つ紹介します。
Orange Pi
Raspberry Piと同様、オープンソース[4]のシングルボードコンピュータです。
2016年にRaspberry Pi 3シリーズの対抗馬として発売され、Socに内蔵されたCPUのコアクロック周波数がRaspberry Pi 3Bよりも100MHz高い1300MHzとなっていたため、性能面で少し優位でした。(その後、モデル3B+の1400MHzで巻き返されます)
すべての製品バリエーションでAndroid OSを実行することができるという点が、Raspberry Piとの大きな差別化ポイントとしてよく言及されています。
この製品の発売当時では、Raspberry Piは最新の機種のモデル3Bでしか動作させられませんでした。
また、Orange PiはGPUが強力なため、発売当初から4K解像度のディスプレイを使用することができました。
Raspberry Piと同様に、基板上に40ピンの外部コネクタが搭載されていて、そのうち26本をGPIOとして使用できます。電源は電源ユニットから供給します。
Orange Piには多くのバリエーションがあり、コンパクトなZeroバージョンもあります。
ストレージを内蔵しているものなどは高価ですが、廉価モデルにはRaspberry Pi 3よりも安価に手に入るものもあります。
Banana Pi
2014年3月に、同じくオープンソースのシングルボードコンピュータ、Banana Piが発売されました。Raspberry Piはまだモデル1Bしかない頃のことです。この当時のRaspberry Piと比べると、Banana Piの方が圧倒的に高性能でした。
デュアルコアのCPUをクロック周波数1000MHzで動作、メモリは1024MB搭載していました。(ちなみにRaspberry Piはシングルコア300MHz、メモリ512MBです)
最初に販売されたモデルではGPIOのピン数こそ少なかったものの、すでにギガビットイーサネットに対応する、SATA[5]コネクタ・マイク入力・赤外線レシーバーを有するなど、Raspberry Piとは一線を画すものでした。
一方で販売価格はというと、当時最新のRaspberry Piの約2倍の価格設定になっていました。
現在は、こちらもRaspberry Pi Zeroをベースにしたコンパクトなシリーズなど、多くのバリエーションを展開しています。
ASUS Tinker Board
ASUS Tinker Boardは2017年に発売されたシングルボードコンピュータで、物理的な寸法やGPIOピンの配置などはRaspberry Piをベースに設計されています。
2017年4月のリリース時点ではRaspberry Piはモデル3Bが発売されたころで、性能面で一気に優位に立つことができました。
Raspberry Pi 3Bと同様に4コアのCPUを使用していますが、クロック周波数は1800MHz、ターボオード時には2600MHzまで上昇して動作させることができました。(この当時最新のRaspberry Pi 3Bは4コア1200MHz)
その後Raspberry Pi 3B+や4Bが発売されても追いつかれることはなく、性能面で優位な状態が続いていますが、その分ボードは高価です。
2018年に発売された追加バリエーションの「Tinker Board S」ではボード上にストレージを搭載したモデルも登場しました。
Odroid
OdroidはHardkernel社のシングルボードコンピュータです。Raspberry Piが発売される前から存在する製品群なので、Raspberry Piのフォームファクタと必ずしも一致しない部分が多く見受けられますが、Raspberry Piの競合製品になっています。
Odroidという名前は「Open Droid」の略から来ています。
Odroidも多くの競合他社製品と同じく、同時期に発売されているRaspberry Piと比べてより高性能な製品を発売しています。
2015年に登場した「C1」「C0」シリーズはコアクロック周波数が大幅に向上したほか、ネットワーク接続も高速化されており、eMMCストレージ用のスロットも搭載されています。
Odroidは製品のバリエーションが非常に多く、2020年初頭の時点で15種類の製品が販売されています。いくつか例外もあるものの、Raspberry Piより高価な製品が多くなっています。
[1] NoIR:No InfraRed
[2] HAT:Hardware Attached on Topの略で、Raspberry Piの機能を拡張するためにRaspberry Piの外部コネクタに直接差し込めるボードのことを指します。Arduinoでいう「シールド」です。
[3] PoE:Power over Networkの略で、ネットワークケーブルを介して直接ネットワーク機器に電力を供給する規格です。ネットワーク機器を設置する際に電源の確保や電線の取り回しを考えなくて良い、ネットワークケーブル(例えばLANケーブル)だけ引き回せば良いという利点があります。
[4] オープンソース:ソースコードが公開されているソフト
[5] SATA:Serial ATAの略で、ハードディスク用のコネクタ
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